病院薬剤師の冷や汗#5

病院薬剤師は、ときに冷や汗を流します。実際の症例は、教科書通りにはいきません。

【突然の躁状態】

デカドロン錠0.5㎎といえば、デキサメタゾン(ステロイド)です。

でもこれ8錠/朝夕食後×毎日 でのんでいたがん患者さん、性格変わってしまいました。

じいちゃん
がん患者
Aさん

(廊下を笑顔でスキップして)Yummy!ヨッ!!元気にしとったか?

・・・躁状態ですね。しかも薬剤指導したいのに、よけいな話をとめどなくし続けて大事な話に辿り着けない。一体どうしたんだろ?

 

訝しがってカルテをみると、3日前に「だるい」と訴えあって

「デカドロン錠0.5㎎×8錠」

を毎日投与開始。デカドロンは本来抗がん剤のだるさ止めに使う薬ですが、例外に(抗がん剤なしでも)ターミナルケアの人には使うことあります。

・・・で、その投与開始2日目からAさんが変化。一日2時間しか眠れず深夜でもギンギン。夜2時に友達を呼びつける。夜2時にドライブして、近くのスーパーやパチンコ屋もしまっていて残念だったという(当たり前です!)。1日40キロも歩いてしまう。とにかくしゃべり続けている(看病する妻や息子は疲れている)など。

・・・そして今日、僕はこのAさんを問診しました。その第一声が、さっきの「Yummy!」だったのです。僕が聞いた限りの彼の発言です。

じいちゃん
がん患者
Aさん

主治医になぁ、「だるくなったら昼でも夜でも関係なく病院来い!点滴何百本でもうってやるから」と言われた。

じいちゃん
がん患者
Aさん

おれはなぁ、がんが6か所もあるんやってさ。そんなの世界で2人目の症例らしい。一人目は広島の女の人で、すげえんだぜ!

じいちゃん
がん患者
Aさん

俺はな、世界一なんだ。世界一のまま死にたいからがん切らんでくれ!

・・・そしてデカドロンがこの躁状態の被疑薬なので、投与1日で中止しています。少しはハイテンションがましになったそうですが、それでもひどいです。

本日の来院は、抗がん剤点滴のためだったのです。抗がん剤=デキサート注射(デカドロンと同成分の注射版)ですが、デカドロンがダメな以上使えません。だから同等で少し少な目のステロイドを使うんですね。

 

・・・本当はデキサート10㎎=プレドニゾロン50㎎ですが、ステロイドでランラン&ハイテンションになってはいけないので、10㎎に大減量して投与しました。具体的には

デキサート注射3.3㎎×3本 ➡➡ 水様性プレドニゾロン注射20㎎×1/2本

に変更です。当然2・3日目に投与するデカドロン錠も、プレドニン錠に変更です。

ちゃすけ
ちゃすけ

だるさ止めデキサートという注射はいま使えないので、プレドニンという同投薬を減量して使います。

じいちゃん
がん患者
Aさん

何やってぇ!?
だるさ止め、俺ますます元気になってしまうな。まぁ俺、30台やからなぁ!!

もちろんこの方30台でなく、かなり高齢です。ステロイド注射したので、いよいよ抗がん剤開始です。しかし・・・

看護師
看護師

Aさんが病院どこにもいない!これじゃ始められないよ。

失踪していました。2時間捜して、ようやく病院外のベンチで発見。慌てて病室に連れ戻し、なんとか説得して抗がん剤点滴の開始です。しかしこの抗がん剤、2泊3日もかかる点滴(mFOLFOX6+〇〇mab)だったのです。

じいちゃん
がん患者
Aさん

おれは点滴はもうやらん、帰る!

懸命の説得も通じず、1本使って中止になりました。残念です。

 

がんでなく、精神科から治療スタート

こんな治療中にハイになって、点滴どころじゃなくなった人は流石に珍しいです。

だけど、このままでは点滴できません。危険な思いして、せっかくつくった抗がん剤もパーですから。

本人はおれは点滴いらない、元気だからといっていました。だけど抗がん剤で確実に、がんが縮小していました。折角救えるかもしれない命なのに、治療しないのは勿体ない。それを外科の主治医は嘆いていて、ひとり訪れた娘さん(本人は予約受診を拒否したため)を説得していました。

まず外科でがん治療はできません。だから精神科で薬を使って落ち着かせてから、外科に改めてきてほしいと。精神科に紹介状をしたため、握らせていました。このまま精神科大人しく通って、外科で治療してほしいものです。

【がん患者さんを診ていて気が付いたこと】

治療中にこうやって、性格豹変する方は珍しくないです。

●怒り易くなる、多弁になる
●鎮痛剤麻薬を乱用して、呼吸抑制をおこす

こんな症状起こして、家族が心配するケースがありました。優しかった患者さんがハイテンションになり、栗きんとん一つ買う為だけに突然遠くまでドライブに行ってしまったり、なんてケースもありました。この方はその1か月後に、がんが急進行して、麻薬点滴しか受け付けなくなり、亡くなってしまいました。

性格豹変の原因は、がん進行のせいなのか、麻薬増量なのか、デキサート注射なのか、それとも本人の性格だったのか。それは解りません。こうやって急変する人は、沢山います。だけど治療中に、点滴拒否して飛び出すような人は見たことがありません。みなさんやせ我慢してでも、抗がん剤を受けたい方たちなので。

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