★【薬剤師体験談】漢方薬局での転職経験

転職・他の働き方

薬剤師転職のサイトをみても、あまり載っていない本音をできるだけ書かせていただきます。

【この記事の信頼性】
●この記事のライターは、薬剤師経験15年ほど。
●調剤薬局(大手&個人店、大規模店も一人薬剤師も)、ドラッグストア(大手)、漢方薬局(大手)、派遣薬剤師を全て1年以上ずつ経験済み
●現在は病院薬剤師 兼 ブロガー 兼 投資家 やっています

漢方薬剤師の難易度は?

非常に難しいです。

体質を見極める難しさ

その難しさの一つ目は、「この症状・病名=この薬」と決まってないからです。その例としてみなさんは「同病異治」「異病同治」という言葉をご存じでしょうか?意味は読んで字のごとくで、同病異治は、同じ病名・症状なのに人によって全く違う治療法を施す、ということです。

【(漢方における)同病異治の例】
●AさんとBさんは、同じ更年期障害の不定愁訴を訴えている。しかしAさんは当帰芍薬散、Bさんは桂枝茯苓丸が処方された。
●Aさんは浮腫体質で雨の前日にいつも体調くずしていた。肌も年齢の割に若くみえ、舌がでっかい。
●Bさんは冷えのぼせの体質で、夏なのにぶあつい靴下・頭は汗。イライラしやすくなってきた。
➡同じ病気・症状である更年期障害であっても、体質によって使う薬・アプローチが変化してしまう。

この当帰芍薬散・桂枝茯苓丸の例はとてもわかりやすい例なのですが、体質を見極めないといけないんです。そして使い間違えると誤治となり、かえって悪化してしまう場合が多いのです。だから漢方では、同病異治をするのです。

異病同治は、全く違う病名に見えるのに同じ治療法を施す、という意味です。

この様に、「その人一人ひとりの体質を見極める」作業が非常に難しく、また当然最適な漢方薬(時には西洋薬も)を幾つも知っていないといけません。この難しさは、病名から答えが決まっている西洋医学にはないです。

漢方処方箋をうけて調剤するだけの薬局なら、そこまで厳密にやらなくてもいいです(それでも知識がないと出来ませんが)。漢方相談をやっている場合は、これ以上に難しくなります。

金銭的な難しさ(漢方相談の場合のみ)

金銭的にも、漢方相談する場合は難しいです。どういうことかというと、医師の診察・調剤の場合に比べて漢方相談の場合は、治療費用が5倍~10倍位違うからです。

更年期障害での治療の例
【医師の診察・治療の場合】
●リュープリン注射&当帰芍薬散の処方するとして
診察代で2000円+薬代で2000円/ひと月
※ザックリです
【漢方相談の場合】
●自分たちで薬を調剤する場合は、たいてい一日600円位で作ります
薬代600×31日=18600円/月

漢方薬の代金さげればいいじゃないか・・・と思いますが、漢方相談は薬代というかはそこに至るまでの問診・診断・治療方針決定・調剤のすべての手間も入っているのです。この位とらないと採算ベースにのりません。そして保険が一切利かないので、すべて10割負担で払っていただくことになります。

同じ治療薬なら病院で3割負担で行くに決まっています。「私は高くてもいい、漢方相談じゃないとこんなに良くならなかったんだ!」とならないと、漢方相談に来てくれません。

これが、漢方相談する場合にさらにつく難しさです。

漢方相談で独り立ちできるレベルは?

とても高いです。私の大学時代の友人も漢方相談の道に進み、独立を目指した人間が3人居ます。

【漢方相談で独立できた友人の例】
●毎月、東海漢方協議会の勉強会に参加
●漢方処方箋調剤の薬局で2年やった
●「俺は漢方が趣味だ」という位、朝から晩まで漢方をやっていた
●西洋薬の弱い部分を漢方でではなく、西洋薬治療を諦めた人間に100%漢方相談で治す位の事はできる。

漢方相談で独立したのは彼一人でした。もう二人は漢方だけでは食べられず、やむなく処方箋調剤をやりながらの漢方相談を目指しています。

漢方薬の勉強方法

管理人の経験談ですが、勉強方法は大きく2段階あります。

【漢方薬の勉強方法】
①漢方の勉強会に参加する =知識を付ける
②漢方薬局に転職する(漢方のキザミ調剤している薬局) =知識をもとに実践する

まず①で漢方の知識・理論を身に着けて、ある程度知識ついたら②転職する、という感じです。せっかくの漢方薬局も、知識がないと身につきませんからね。

そのある程度の知識というのが、だいたい「主要漢方薬の構成生薬名と働きを、一言以上は説明できる」レベルでしょうね。たとえばこんなレベルです。かなりレベルが高いように感じますが、主要な漢方薬をわからずに漢方薬局に行く=英語も解らずにアメリカに行く、と同じ感覚です。つまり行っても解らず、身につくまでに時間がかかりすぎます。漢方調剤・漢方相談にとっての漢方薬の理解は、アメリカ留学でいう基礎的な英会話にあたるのです。

【漢方薬局に転職する前に身に着けたいある程度の知識】
●主要な漢方薬:麻黄湯・葛根湯・桂枝湯、人参湯、桃核承気湯・桂枝茯苓丸・当帰芍薬散、六君子湯、猪苓湯・五苓散など(思いつく限り)

●葛根湯の説明例:寒邪にあたり体表面が冒されている状態への薬(寒い日の風邪の引きはじめ・肩こりの様なもの)。
麻黄・葛根の組み合わせでその体表面にエネルギーを送るトラック。
トラックの輸送路を経皮が作る。
体表面にエネルギーを送るためのエネルギー源として、大棗と人参がある。
生薬の調和とエネルギー源を兼ねて、甘草が入っている。
この位の説明を主要薬に対していえるレベルです。

管理人は「理論的な漢方」を勧めてきました。じゃあ理論的じゃない漢方があるかというと・・・あります。

【漢方薬の使い方】
●日本漢方の理論:随証療法。つまり「Aさんは寒気とゾクゾクがある。これは葛根湯の証だ!」と証をあてはめて考える使い方。
➡基礎知識なしでも出来る為手取り早いが、実際の症例はきれいな葛根湯の証だなんてことは少ない。

●中医学の理論:弁証論治。つまり「Aさんは寒邪が体表面にある。脈をとると浮き出ている。汗がない。汗が無いから体力は十分にある状態。体力がある状態なので実、初期の寒邪の状態だから葛根湯がつかえる」と証を考える。
➡基礎知識が必要(葛根湯はじめ代表漢方薬の構成生薬と治す方向性を知っている、証一つ一つをみぬく力)だが、応用がきく。

はじめは難しいのですが、中医学の理論でいかないと追いつかないです。だいいち「葛根湯の証だ!」で単純明快だったらそもそも漢方相談に訪れませんからね。

漢方薬の勉強会

これ結構当たりはずれありますよ。ポイントは「理論的な漢方(=中医学理論で、”弁証論治”という)」をやっている勉強会を選ぶこと。

漢方薬の勉強用の本

きつい言い方をしますが、世の中の漢方本はほとんど理論のない、読むだけ無駄なものが多いです。勉強会と同じで、理論的な漢方の本を選んでください。ひどいとデタラメな、著者の主観だけで書かれたものも多いですから。

無料で手に入る漢方薬本

ツムラの
漢方ハンドブック
×最大手の本だが間違いが多い。
葛根湯=太ったオッサン、がっちり
した人限定の様に書かれている。
生薬ごとの理論もない。
クラシエの
漢方ハンドブック
生薬ごと・組み合わせによの理論
もしっかり書かれている。
コタローの
漢方ハンドブック
生薬ごと・組み合わせによる理論
が一番深く、正しく書かれている。

【ハンドブックと目標レベル】
●ツムラのハンドブックは薬をみて、たいだいの漢方薬を充てられるレベル。でも漢方極めるにつれ、間違いに気が付いてくる。漢方薬の混合したりすると、もうツムラ理論は通じない。
●コタローは漢方のプロになるために必須の知識。混合しても応用のきく理論がある。

漢方薬を理解する例として、甘麦大棗湯。

ツムラのハンドブックだと、小児の夜泣きとだけ書かれています。でも実際は、お腹(漢方理論でいう脾)の弱い人間の体力増強にも使います。これは構成生薬が棗・小麦・甘草でいずれも脾のエネルギーをおぎなう作用があるからです。こういう理論はコタローの本には書かれているので、正しく理解するのに参考になるのです。

有料で買う価値のある漢方薬本

さきほどと同じです。理論のちゃんと載っている本を選びましょう。あと漢方薬の本は医師が書いた本・薬剤師が書いた本・その他の方が書いた本とありますがあまり関係ありません。世の中の漢方本の大半は理論が抜けていて、この症状ならこの薬的な短絡的なものが多いです。理論がないと独り立ちして漢方でやっていくには使えません。

管理人が愛用して役に立った・独立できた友人が太鼓判をおしている名書を紹介いたします。

漢方の理論をまなぶうえで一番イラストが多く、系統だてて載っている本です。これから漢方を学びたい方は、足掛かりにするといいですよ。

この本を書いた仙頭先生は京都駅前で漢方医院をされる医師で、漢方のみで結果をだしつづけている先生です。勉強会も関西地区にかぎらず、日本全国でされています。この先生の勉強会もなかなか面白く、薬剤師とは違って「漢方理論の見える化」を徹底されています。その内容はこの本に載っているよりさらに詳しく、実例もかなり多いです。ほかの薬剤師の理論で解らなくても、仙頭先生の見える化した理論でだったら辻褄があってすっきりしたりもします。

なおこの本は漢方薬・構成生薬の理論だけでなく、飲食物のもたらす体への影響なども書かれています。体調悪かった人が食べ方を変えただけで治った、なんて話もありますがこの本でバッチリわかります。どうして旬の食べ物を食べるのが大事かも、すっきりと解るはずです。

この本も理論派で、漢方をやっていく人間には大いに役立ちます。漢方での見立て=感覚的なものが多いのですが、この本は見立てを点数化することでわかりやすくしています。たとえば水毒(水滞)の診断で、舌が肥大:水毒スコア2点、足のむくみ:4点・・・などで、10点以上で水毒の診断、といった感じです。

そして症例が多く、各「証」ごとに症例があります。

いわゆる赤本です。iPhone,アンドロイド,Windows版のアプリもあります。

世の中で使われるほぼ全ての漢方薬が載っています。漢方薬から調べるにはこれが一番いいです。(反対に症例から調べるには和漢診療学が使いやすいです)

理論的に漢方を使う(=中医学の”弁証論治”)のは基礎知識が必要です。診断の的中率を挙げたり、漢方薬を混合して使う場合は必須になります。どうしても理論的でない使い方(=日本漢方の”随証療法”)だと、限界がきます。なぜなら「教科書通りの典型的な当帰芍薬散の証」などは実際ほとんどないからです。

【番外】理論なくても当たる漢方薬

難しい漢方理論を知っていなくても、病名や症状だけで当てられる漢方薬について。

(加筆予定です)

コメント

タイトルとURLをコピーしました