薬学実習生、保険薬局薬剤師、病院薬剤師の方向けの少し専門的な豆知識をかきます。一般の方向けではないです。
【抗がん剤の服薬指導・・・難しい!】
これとっても難しいと思います。僕も最初はビクビクしていましたから。
①薬剤師の僕の口から「がん」だなんて言っていいのか?
未告知だったらどうしよう・・・
②抗がん剤点滴はとにかく本数が多くて複雑。
一つ一つどう説明するんだ?
③僕の説明した薬で、副作用でて生活できんくなったら、どうしよう・・・
でも大丈夫です。ちょっとしたコツがあります。(担当して9か月、専門薬剤師の資格も無い)ぼくが、出来るといっていいレベルかは分かりませんが。
①抗がん剤うつ人は、全員告知済
どの病院でもだいたいそうだと思います。だから
この抗がん剤ですが、
などと抗がん剤・がん細胞の単語もOKです。ただし、
●一部告知:がんは残っているのに、無事とれたと方便を使う
●全告知:がんの細かな転移、ステージまですべて正直に話す
どちらかです。たいてい全告知なのですが、一部告知の人もいます。カルテをよく見て、「本当は切除しきれていないが、本人には無事とれたと言いましょう」などとあったら要注意です。
③抗がん剤の副作用が怖い!
点滴したら、髪の毛ごそっと抜け落ちるんでしょ?
私スキンヘッドは嫌だ。抗がん剤したくない!
※ちなみに脱毛する抗がん剤といえば、「イリノテカン」。よりによって、乳がん(つまり女性ばかり)で多用する薬です。こればかりは、副作用止めが存在しません。
おれドラマで良く見るぞ。抗がん剤つかった人が、朝から晩までゲーゲーしてるやつ。あんなのイヤだぞ!
それは昔の抗がん剤だと思われます。ぼくの感覚ですが、朝から晩まではくような人は、見たことありません。今の抗がん剤はうまく設計されていて、吐気はあまり起きません。
それに副作用予防にこれでもかと予防薬・軽減薬を使うのです。抗がん剤打つとき、「吐気止め」「過敏反応止め」「だるさ止め」は多く併用されます。
②抗がん剤の説明、沢山あるけどどうするの?
難しく考えないでください。パターン化できます。服薬指導の基本を考えましょう。キモなので次の項で説明します。
【抗がん剤の服薬指導】
<1>患者さんの知りたがるだろうことを伝える
<2>患者さんが後々不安がる事を先回りして伝える
<3>患者さんが後々困らない様に伝える
これを踏まえ、例として、次の注射レジメンだったとします。
※胃がんで頻用される「S-1+CDDP療法」の例
ラクテック500mL |
グラニセトロン3㎎ +デキサート3.3㎎×3 |
シスプラチン80㎎ +5%ブドウ糖液全量で500mL |
ラクテック500mL +フロセミド20㎎ |
5%ブドウ糖液500mL |
ラクテック500mL |
<1>患者さんの知りたがること。この場合は。「どれが抗がん剤なのか?」「どんだけ副作用が出るのか?」です。
・・・抗がん剤は「シスプラチン」のみ。一般的な患者さんは、これがどこで使われて、どう副作用がでるのか、知りたいのです。
点滴3本目のシスプラチンが、抗がん剤です。これは「増えまくる細胞を叩く」ことで効果でます。増えまくる細胞=がん細胞だけでなく、正常細胞にもいくつかあります。副作用の多い薬なので、その前後に予防薬をいっぱい使っています。
吐き気起きやすいので、吐気止めのグラニセトロンを直前に打ちます。体力消耗するので、デキサート点滴を直前打ちます。腎臓ダメージがあるので、とにかく水を流します。他の殆どの点滴はは、水流す為に使います。
口腔粘膜が増えないので口内炎、胃粘膜・腸粘膜が増えないので下痢・吐気、毛母細胞が増えないので脱毛、の副作用が出やすいです。
初回指導でも、このくらい喋ります。これで<1>~<3>を満たせます。これを抗がん剤のパンフレット(製薬メーカーがくれる物)に沿って、説明しています。
なお抗がん剤と一口に言っても、その作用はバラバラです。それぞれの説明方法も、いずれ文章にしたいと思います。※下で少しだけ話しますが・・・
【抗がん剤の薬理ごとの説明】
抗がん剤の服薬指導は、上記の通り基本は「増えまくる細胞をたたく薬」でよいです。が、頭のいい患者さんだと、なんで抗がん剤5種類も使うんだ、と突っ込んできます。そういうとき、皆さんどう説明しますか?
例として、mFOLFOX6+B-mab療法の説明を載せます。
① | 生理食塩水(100mL) | |
② | グラニセトロン3㎎ +デキサート3.3㎎×3 |
|
③ | ベバシズマブ__㎎ +生理食塩水(全量で100mL) |
|
④ | 生理食塩水50mL | |
⑤ | オキサリプラチン__㎎ +5%ブドウ糖液(250mL) |
|
⑥ | レボホリナート__㎎ +5%ブドウ糖液(250mL) |
|
⑦ | フルオロウラシル(急速)__㎎ +5%ブドウ糖液(50mL) |
|
⑧ | フルオロウラシル(持続)__㎎ +5%ブドウ糖液(500mL) |
例)mFOLFOX6+B-mab療法・・・抗がん剤が5種類もあります!
一括りに「増えまくる細胞を叩く薬」だとすると、「抗がん剤は1種類だけでいいじゃないか!」と言われることあります。抗がん剤点滴をするような患者さんは認知症もなく、体力も保たれている方々なので、そういう頭のいい方も少なくありません。だから、抗がん剤1つ1つの説明が必要です。
僕だと、こう説明します。※僕の説明は端的でわかり易い、とスタッフに言われています。
① | 生理食塩水(100mL) | ||
② | グラニセトロン3㎎ +デキサート3.3㎎×3 |
||
③ | ベバシズマブ__㎎ +生理食塩水(全量で100mL) |
がん細胞への栄養血管を断つ事で、がんを弱らせ死滅させます。 | |
④ | 生理食塩水50mL | ||
⑤ | オキサリプラチン__㎎ +5%ブドウ糖液(250mL) |
細胞の設計図DNAをイジって、分裂できなくする薬です。増えまくる細胞に程効くので、正常細胞も抑えられ副作用がでます。 | |
⑥ | レボホリナート__㎎ +5%ブドウ糖液(250mL) |
次のフルオロウラシルを増強します。 | |
⑦ | フルオロウラシル(急速)__㎎ +5%ブドウ糖液(50mL) |
同じ薬を急速に打つのは、血中濃度が高いほどがん細胞を抑えられるからです。 | |
⑧ | フルオロウラシル(持続)__㎎ +5%ブドウ糖液(500mL) |
細胞の設計図DNAの、ニセ原料です。ニセ原料でDNAをつくると、うまく細胞が増えません。正常細胞にも~(以下、オキサリプラチンと同) |
あくまで僕の説明なのですが、こんな感じで説明しています。もちろん口頭だけではすぐ忘れてしまいますから、パンフレットの該当ページを見せながら説明します。このレジメンの場合だと、「中外製薬のアバスチンのパンフレット」が説明しやすいですよ。
コメント
[…] 抗がん剤の服薬指導では、薬全部を順番通りに説明、はNGです(そんなに長々と聞いてもらえない)。ポイントを絞って、説明しましょう。(詳しくはこの記事を参照) […]