【病薬】それって本当に薬の話ですか?

病院薬剤師

病院薬剤師をしていると、当然薬の事で頼られます。『薬でなんとかなる』と思ったら、話をふられます。こんな感じでね。。

看護師
看護師

認知症でせん妄起こして、お世話が大変です。何かよく効く薬はないでしょうか?

【この記事を書く管理人について】
●病院薬剤師5年目。前職は調剤薬局・ドラッグストア・漢方相談・派遣薬剤師で管理薬剤師も経験済み
●委員会業務は「薬剤部システム」「化学療法委員会」「感染予防委員会」を担当している
●病院の薬剤師実習も担当・「実務実習認定指導薬剤師」の資格も所持
●病院HPの薬局部門も作成
●担当病棟は急性期病棟で、内科・外科の患者さんの薬学管理を担当する
※米国株投資家の側面もあり(投資のサイトも管理)

こんな管理人が、解説いたします。

大前提:薬物療法は(患者とその介護者を)幸せにするための手段の一つに過ぎない

・・・冒頭のように看護師さんに『薬で治せませんか?』は、病院薬剤師がよくされる相談ですよね。でもね、この誘導尋問に引っかかってはダメですよ。患者さんが「酷いせん妄」であることと、「薬物療法」に限定してしまう尋問なんですよね。

これが誘導尋問ってどういう事なのか?

・・・それは私たち病院薬剤師がまず覚えておかないといけないのは、タイトル通りの大前提です。要するに薬物療法は、数ある手段のうち一つに過ぎないという事です。

どういう事かというと、イキナリ薬物療法を考えるな、むしろ薬物療法以外の治療法も考えろって事です。

【治療方法】
●食事療法:栄養状態を改善する ←管理栄養士が期待される分野
●運動療法(リハビリ):筋力低下(フレイル)予防することで、ADLを向上させる ←リハビリ技師が期待される分野
●生活療法:生活サイクルが正しいか・正しくするための工夫をする ←看護師が期待される分野
●薬物療法:症状に相応しい薬を見つける・試す。ただし最後の手段 ←薬剤師が期待される分野

こういう事なんです。つまり私たち薬剤師の期待される分野は、最後の手段です。私たちは求められた通り「薬物療法」を考えるのではなく、まずは他の治療法ができているかどうか見ないといけないんです。

じゃあなんで、最後の手段であることを強調するのか?・・・・それは、看護師も、医師でさえも『とりあえず薬だしとけ!』になっているからです。つまり、不要と思われる薬をだしてしまって、止められなくなるケースがあるのです。

その具体例を挙げます。というか白状しますと、実は管理人はメンタルを病んだ事があります(薬剤師転職のページにもかいてるので、読者さんはご存じかと)。症状としてはごはんおいしくないし、朝おきるのが憂鬱で「朝なんてこなければいいのに」って思ってたし、お腹もいつも痛い。それで友人に精神科を勧められ、行きました。「ルボックス錠25㎎を1日2錠、14日分」を処方され飲み始めました。・・・でもね精神科の先生、話聞いているようであまり聞いていないんですよ。僕の職種のことも、次受診の時は忘れてしまう。15分診療して終わり。ルボックスの錠数は2錠➡4錠➡6錠と増えて、眠剤のマイスリー錠5㎎も途中だされて、14日毎に受診していました。それでも症状は治まりませんでした。途中胃薬として「ガスター錠・タフマックカプセル」も出されたけどそれでもダメ。ただ通って、ルボックスの副作用が増えただけだった。

これをどうやって解決したのか。親の一言でした。「もうやめろ!通院も、会社もな!会社やめる理由はなんでもいい!リーマンショックで、親が苦しいから田舎に帰ってこいって言われた、これでいい!」とね。その通りに実行しました。・・・・本当に会社も辞めて(非常に引き留められて難儀した・退職代行あれば使いたかった)、アパートも引き払って実家に帰ったんですね。・・・・すると、あのうつ症状も、お腹の症状もうその様に改善したんです。

【薬が最後の手段である実例(管理人の実体験)】
●うつ症状・腹部症状があった
●最初に「薬物療法」を勧められて実行したが、無効だった
●「生活療法」として、うつの原因である職場を止めた➡症状が改善した
●纏めるとまずは「薬物療法以外」をやるべきだった。薬物療法は副作用リスクが大きく、まずは患者全体を見ないといけない。

(余談)この鬱のせいで、24歳の僕は結婚約束してた元カノとも別れました。その8年後に妻に出逢えたからいいですけどね。

ずいぶん遠回りしたのですが、管理人はこの身をもっての体験のお陰で「まずは薬物療法以外を考える(=患者全体をみる)」習慣がつきました。薬剤師としての視野を広げてくれた、今となってはいい体験なのです。

別の具体例として、便秘に悩む患者Lさん。この方も最初『便秘が解消しない。今の酸化マグネシウム錠も効いていないみたい。なにかいい薬はありませんか?』と看護師さんに相談されました。しかし便秘薬で酸化マグネシウム以となると、「強いが癖になる便秘薬」ばかりですよね(最近はモビコールみたいないい薬もありますが)。さっきの原則をあてはめて、まず他の治療法が無いのか探ることにしました。・・・すると、まず運動習慣が無くて病室でほとんどごろ寝。給食も繊維質のモノを残してしまう。水分だけはしっかり摂っていたみたいですが、これでは便秘になる生活習慣で当たり前です。そこで鳥が大好きな事をきいて「ベランダの燕や鳩の巣でも観察に行っては?」と提案。日中何度も動くようになり、便秘薬は酸化マグだけで足りるようになりました。

そしてこの患者全体をみる習慣、何も管理人自身のうつ症状にかぎらず、ほとんどすべての疾患で通用することも解りました。それは次項に続きます。

【結論】薬物療法を頼まれても、まずは他の治療法が十分か検討する!(薬ありきではなく、患者全体をみる)

そもそも論:患者全体を正しく把握しよう

正しい治療法をするためには、患者全体を正しく把握しないといけません。

なぜなら、この全体把握は結構間違っている事が多いんですよ。

具体例を挙げると、管理人は先日看護師さんに認知症患者Dさんのことで相談をうけました。『認知症の酷い○○さん、夜間もトイレに起きて、不穏が続いています。薬が合わないんだと思います。なんとかできませんか?』とね。そして電子カルテを開くと、そのような看護師さんの記録が見つかるのです。

# 認知症 危険行動あり(暴力 暴言 拒否 妄想 帰宅願望など)
大きな声を出し、起き上がろうとするなど体動激しい。他の患者も起きてしまう。
トイレと称して、何度も起きてしまう。ナースコールを押すよう指導しても、押さず自分で起きてしまう

患者Dさんのこんな記録だけが見つかりました。いかにも暴力があって危険そう、ナースコールの指示すら通らないくらい認知症悪化だと思いますよね。これだけなら凶暴性を抑える薬・・・ハロペリドールやオランザピンを投与して鎮静しようか、と考えますよね。

・・・でもね、話を聞いていくと現実の患者Dさんは全然違う訳です。

患者Dさんの実際
●暴力、暴言をふるったことはない
●拒否や妄想もない
●夜間覚醒するからトイレを気にするか、トイレ行きたくて(過活動膀胱で)起きるのか不明で困っている

更に患者家族(介護者)の話を聞くと
●家にいたときからオムツを外し、朝にはベッド中にょうまみれになってて辛い。臭いし重労働。
●でも自分を育ててくれた恩人、抑制着つけて縛るのはしたくない
●入院中、楽だからと抑制着にして縛っていたことは腹が立った。Dさんを人間扱いしてくれないこの病院は嫌い
●Dさんはいつも穏やかで怒鳴る・暴力などとは無関係の人

最初の看護師記録とずいぶんちがう訳ですね。さっきの「認知症 危険行動あり」はただの認知症患者記録のテンプレートだったんです。ここに気が付けたのは「まず薬物療法」とせず、「先入観を取っ払って、まずは患者全体をよくみる」という習慣のお陰でした。

またある看護師さんは『何で抑制着外すの。ツナギ買って、家でも縛ればいいじゃん』と言っていました。でも違うんです。恩人だから人間扱いしてほしい。どうやって抑制着なしで、でも夜間トイレ問題を解消して返してあげたい。これが患者全体をみたときの考察でした。

・・・つまり一番の問題は「夜間覚醒」「頻尿」だったんです。さっきの話とは全く治療薬が変わってきます。暴力性だとか、妄想は全くなく悩んでもいないところ。危うくミスするところでした。

【結論】先入観を意識して取除き、患者全体をみる

解決法:症状の起因薬を取り除く。

まず解決方法としては、下記の流れをたどります。

●先入観を意識して取除き、患者全体を見る
●薬物療法 以外の治療法を考える

【薬物療法以外の治療法】
●症状の起因薬を取り除く(副作用疑いをさがす)
●運動療法
●食事療法
※すべて実行してもダメな場合に、薬物療法を考える

なのでまず、症状の起因薬を考えるのです。

具体例:先の例にだした認知症Dさんですが、心不全で動きたくても動けない。脈拍をよーく見るとQT波が長い。そして認知症ということで、ドネペジル錠5㎎を使用中。➡➡医師に中止提案➡医師了承して、ドネペジル中止。➡➡QT波は正常化。認知症も悪化していない。これで、少しは動いてくれるようになりました。

しかし、それでもDさん、まだ中途覚醒がありました。

解決法:症状を運動療法・食事療法で解消めざす

なにかの症状があれば、薬剤師はまず起因薬を疑います。それでもダメな場合は生活療法(運動療法+食事療法)を考えます。

『そんなの当たり前、やっているのに良くならないんだよ』と言われそうですね。ですが、本当に生活療法、できているでしょうか?

できているつもりでも、出来ていない場合が結構多いのです。患者さんの「できてます」を、本当に検証したことあるでしょうか?

【患者自称≠現実の行動】
●患者がウソついている(例:俺は寝れないから眠剤くれ、昼はあんなに動いているんだぞ!➡実際昼に訪室するといつもベッド、居眠りばかりしていた)
●患者のできるが、できる水準ではない(例:俺は便秘だ、ごはんだって沢山食べているんだぞ!➡実際の給食下膳をみると、繊維質のものがほとんど手つかず。沢山たべた、おかず8割たべた記録はごはんと肉類だけ食べきった意味だった)

※薬の例でも(例:スピリーバ吸入、いつもできているぞ!➡目の前で吸ってもらうと、吸入時にスイッチを押せていない。薬剤のガスが吸い込めず口から洩れまくり。➡呼吸困難で強い薬併用を検討していた医師に、まずはスピリーバを本当に吸わせますと提案。それで治ってしまった)

具体例:先の例の認知症Dさん。動けるようにはなったけど、昼夜逆転が続いていました。それでオムツを外してしまい、排泄物をまき散らす事が重労働になっていました。だから抑制着をつけさせられ、手にはミトン。しかし何で昼夜逆転するか一日中様子をみていたところ(薬剤師なので出勤時・日中の病棟上がる時何度も・退勤時)、デイルームに来させられて何もなく、座らされているだけ。これじゃあ日中居眠りするし、夜眼が冴えるに決まっています。それで看護師さんに『日中座って放置させられるだけじゃ、寝ないに決まってます。何かさせてあげられませんか?』と相談。すると塗り絵・新聞を渡してもらい、なんとか日中のリズムをつけてもらいました。

また意外に重要なのは、本人に話をきくことです。食事とれた・運動している・薬も忘れず使えるの類はウソや事実と違う場合が多いのですが、自分の症状にたいしてウソはまずありません。さっきのDさんの例でいくと、「どうしてオムツを外すのか?」という症状にたいしての質問はウソが少ないわけです。ちなみにDさん、この質問には「オムツ替えてもらえず不快」「夏なので暑くて蒸れて不快・かゆい」でした。オムツ替え回数増やせなんて看護師さんに言えないので(看護師さんもいっぱいいっぱいで手が回らない)、まずは別のアプローチを考えることにしたんです。

勿論これだけじゃダメな場合、薬物療法をためすことになります。

解決法:薬物療法をためす

それでもダメな場合に、薬物療法をためすことになります。薬剤師の本当の出番ですよね。

とはいっても、他職種に言われたことを鵜呑みにしないで、まずは全体をみてから。

【ダメな薬物療法】
●言われた通りの薬を考える
※Dさん例だと、夜間せん妄と攻撃性を治す強い鎮静剤をだす。「ハロペリドール」「オランザピン」など

【OKな薬物療法】
●患者さん全体を見て判断する
※Dさん例だと、おむつ不快・蒸れる・かゆい。夜トイレ行きたくて起きる。だから痒さ・蒸れをとれる「レスタミン軟膏(さらさらして痒みも取れる)」、夜間頻尿をとれて中枢に悪影響のない「ベタニス錠」を考慮する

これが本当の薬剤師の出番なのでは、と最近思っています。

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