病院薬剤師さんみんなを悩ませる事といえば、これですよね。
退院したら、もう病院薬剤師は手出しできない。退院後も家で完璧に飲ませるには、どうしたらいいのか?
病院薬剤師にとって退院指導、大事なんです。責任は重く、へたをすると病院薬剤師が責任問われますからね(理由の項を参照)。
退院時の薬剤指導は「厳格」にやりましょう
これに尽きます。厳格にというのは、いろんな意味があります。
●患者の「自称できる」はあてにならない。
➡例)使い方の特殊な薬「シムビコート吸入」「アレンドロン酸錠35㎎」といった薬。
●薬管理する人の理解度・時間的な制約を見抜いて、適切な管理方法を選ぶ必要性あり。
どうしてこんなに厳格にやるのかというと、理由がちゃんとあります。
理由:過失責任があるから
退院後の服薬ミスは、病院薬剤師の過失になります。
●薬剤師は「薬の指導者」。しっかり指導すれば、退院後に誤服用してもお咎めなし。
<これから(2009年~の新解釈)>
●薬剤師は「薬の責任者」。指導がシッカリしていても、退院後に誤服用して健康被害でたら、刑事責任を問われる。
<根拠:薬剤師法25条の2(適正使用情報提供義務)の新解釈>
●薬剤情報の提供は、適正使用のための手段の一つにすぎない。適切に使い・効かせるまでが薬剤師の責任になる。
※参考:MY OPINION -明日の薬剤師へ-の9ページ>資料3を参照
ベテラン薬剤師は(法律の勉強はしないので)ほとんど知らないかと思います。でも知らない間に薬剤師法の解釈は変わり、薬剤師の責任は問われるようになりました。
家族交えて、しっかり薬そろえて指導したぞ。僕はやれる事ぜんぶやったのだから、飲み間違いは責任ないはずだ。
・・・気持ちは解るのですが、これは通用しません。適切に使い・効かせるという結果が全てです。
具体例:こんな経験あるはずです
具体例1:ワーファリン過量服用事件
これは僕(の後輩薬剤師)の実体験です。ですが皆さんもきっと体験するでしょうし、知らないといけない例です。
一見しっかりした70台女性が、退院後に飲み間違いをしてひどい出血傾向をおこした例です。※時系列、患者名などは全て仮名ですが、殆ど同じ症例でした。
時系列 | |
10/1 | 入院。足の静脈血栓予防の為、ワーファリン開始。 <服薬中>●ワーファリン1㎎ 1.5錠/分1朝食後 (10/1~10/7まで) 本人が管理。 |
10/5 | 本人より呼出し。10/5~7のワーファリンがないと。 ➡薬剤師訪室すると、ワーファリンなし。過量投与を疑った。 ➡主治医に連絡。10/5~1錠に減量し、継続。 看護師が管理。 |
10/10 | 退院。ワーファリン1㎎ 1錠/分1朝食後を、10日分。 本人の夫へお渡し。 |
10/20 | 院外処方でワーファリンを受け取り。用量は同じく1錠/分1朝食後。 抗がん剤ロンサーフ錠も併用。 |
10/27 | 出血傾向・白血球低下で緊急入院。 PT-INRが5.5と異常高値。明らかにワーファリン過量が疑われる。 ➡ケイツーN静注を3日連続で注射。ワーファリン中止。 ➡本人管理していた(夫は放置していた)ことが発覚。 「ワーファリンは1錠の袋を朝昼晩と飲んでいた」 「薬袋にもそう書いてあり、嫁に確認したから間違いないよ」 |
10/30 | PT-INRは理想値である1.7へ低下。 いうまでもなく、ケイツーN静注で中和された。 (ワーファリンの明確な過量投与だった) |
11/3 | ワーファリン1錠の代わりに、リクシアナ60㎎×1錠を処方。 |
11/10 | 退院指導;リクシアナ60㎎×1錠/分1朝食後 を退院指導で交付。 ➡どうやって指導したでしょうか?? |
そんなの、管理してくれなかった夫も悪い。本人もボケているから悪い。本人たちの責任だ!
・・・って、ならないです。悔しいですがこれは現在の法律では、薬局薬剤師の責任にもなりうるんですね。だから本当に怖い思いをしました。退院指導は後輩が行っていたからです。
●厳格な管理をさせるべきだった。
※危険薬の飲み間違いがあり、退院後やらかすことは予想できていた為。
この厳格な指導方法・管理方法については、のちほどの管理例で書かせていただきます。
後輩は管理してくれると信じていた旦那さんに裏切られた、と悔しがっていました。僕も悔しい思い出いっぱいでしたが、責任は患者さんだけでなく調剤薬局の薬剤師さんも負う事があるのです(前述)。ですが不幸中の幸いなのは「出血多量で生死さまよって搬送」でなかった事でした。
管理方法の例~使い分け
①薬隠す~服薬時に必要分だけ出して飲ませる 方法
厳密性 | 最強(=安心) | |
協力者 | 同居人いないと無理。 | |
準備 | 処方薬すべて日数そろえて一包化し、日付も記入する。 |
最強の管理方法です。流れとしては普段は薬を隠しておき、必要時に飲む分だけを出して、目の前で飲ませ、カラ袋を回収して確認。
良いところは普段は薬を隠しておくので、間違えようが有りません。ダメな所は独居ではこの手は使えず、毎日朝晩と家族がいないといけません(朝早く夜遅い同居人にはできません)。
②薬をカレンダーにセット➡空袋を確認 という方法
厳密性 | 万全ではない | |
協力者 | 同居人か、いなければ訪問看護師が必要(毎日いる必要なし) | |
準備 | 処方薬すべて日数そろえて一包化し、日付も記入する。 |
厳密性が劣るのは、本人がカレンダーから取り違える可能性があるからです。流れとしては「お薬カレンダー」に1週間分薬をセットしておき、1週間後にカラ袋を確認➡また次の1週間分をセットする。
この方法のいいところは、独居でも可能な事です。軽度認知症で家族協力仰ぎたいけど、独居で止むをえない場合はこれがオススメです。ダメな所は本人が朝と昼を呑み間違えても気付けない・高度認知症だったら使えない事です。
③薬をそのまま渡す 方法
厳密性 | 低い | |
協力者 | 不要 | |
準備 | 処方薬すべて日数そろえて一包化し、日付も記入する。 |
薬を一包化して、そのまま渡してしまう方法です。
いい所は薬剤師としても簡単・本人も飲むことがトレーニングになる事。ダメな所は本人が少しでも認知症の気が有れば使えない事、薬が複雑だったらまとめないといけない事です。
服薬管理方法のトリアージ
Q1:認知症は?➡➡ | なし➡➡ | ➡➡ | ③の方法もOK |
軽度 Q2:同居人の協力はある? | あり➡➡ なし➡➡ | ①の方法で ②の方法で | |
重度 Q2:同居人の協力はある? | あり➡➡ なし➡➡ | ①の方法で 奥の手を考慮 |
問題は「重度認知症なのに、独居」という場合です。②カレンダーセットの方法でも、飲み間違えて不安だったりします。こういう時は奥の手を使いましょう。
●剤数を減らしてもらう
例1)トラマール錠25㎎×4錠/分4朝昼夕寝る前 ➡ワントラム錠100㎎/分1朝食後
例2)配合剤に変えてしまう(特に点眼など)
●通院時の薬に変えてしまう
例1)ボナロン錠5㎎/毎日起床時➡ テリボン皮下注射/通院時のみ
例2)ヒュミラ自己注射/週1回自分で ➡ オレンシア静脈点滴/通院時のみ
例3)透析患者で、トラゼンタ錠/分1朝食後 ➡マリゼブ錠/週1回 月曜日の透析前に
Q1:例1の患者さんへの、指導方法は??
➡A1:もちろん①の「薬を隠して、必要分だけ持ってきてもらう」です。そして旦那さんはあてにならないため、違う同居人で協力できる人に指導しました。この場合ですと、お嫁さんみえたのでラッキーでした。
おわりに:薬剤師の責任は重いです
薬剤師は「しっかり指導したから加算とって、もう責任はない」とはなりません。結構コワイ仕事なんですよ、服薬指導。
患者さんの理解力は思ったよりも悪いです。「口調しっかりしてるから自己管理もできそうだ」とはなりません。僕も見抜けず悔しい想いしました。見抜く為には問いかけをして、正しく答えさせればいいです。例えば「1日の薬で、朝の薬・昼の薬・夕の薬・寝る前の薬、全部正しく取り出してください」です。これでメンドウ臭がれば、おそらく帰っても管理できないので他人管理となります。
病院薬剤師としての苦労は、いろんな物があります。これも僕の体験談ですが、病院薬剤師ほとんどの方に、心当たりある事ばかりでしょう。
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