医師・看護師・リハビリ技師といった職種の仕事は、何か解りますよね?じゃあ病院薬剤師の仕事って、何やってるか解りますか?
病院薬剤師といえば薬を処方箋通りにつくって、袋詰めして渡す仕事だ。それなのに高給取り、いい仕事だなぁ~。
・・・そんなわけないでしょう。こうやって仕事内容を誤解されてますよね。何で苦労を知られてないんだろ、病院薬剤師は全国に3万人もいる、ポピュラーな職種なのにね。そんな苦労を、病院薬剤師で仕事中の僕が、書かせていただきます。
薬剤師の苦労は、知られてこなかった。
薬剤師の仕事や苦労は、おそらく外から見えません。医師・看護師の仕事はドラマでの登場回数の多さで、よくご存じかと思います。・・じゃあ薬剤師のドラマって?2020年4月に「アンサング・シンデレラ」が登場するまで、主役どころかわき役でも居なかったのではないでしょうか?
仕事・苦労を知らなかったというか、「今まで知る機会がなかった」といえば正しいでしょうかね?
理由:功績は薬剤師でなく医師のモノ。患者さんは気が付かない
まことに残念ですが、薬剤師は頑張って仕事しても評価されない・気づかれない職種です。「薬剤師の当たり前の仕事でしょう」といえばそれまでなのですが、問題は「当たり前をやっても賞賛されず、やらないと訴えられる」という理不尽な仕事である点に尽きます。
①医師が抗がん剤オーダーをミス➡薬剤師が気が付いて修正
②医師が抗がん剤の処方量を勘違いで半分で指示➡薬剤師が気が付いて患者・調剤薬局に電話して修正させる
③医師の高カロリー輸液の混注指示のミス➡薬剤師が気が付いて修正
④患者さんの「咳がつらい」訴え➡(咳止めの)フスコデ錠を代行処方・医師に事後報告➡患者に持ってくと「〇〇先生が処方してくれたんだね。○○先生いい人だぁ~」となる。
⑤医師がクロといったことは、シロでもクロになる(爆)
薬剤師が登場した初めてのドラマのタイトルは「アンサング・シンデレラ」ですよね。これが初めてのドラマタイトルとなる事自体、薬剤師の仕事がいかに目立たないのかわかりますよね。シンデレラといえば聞こえはいいのですが、アンサング=賞賛されない・感謝されない、の意味ですからね。
それに、病院内はヒエラルキーがあります。
医師>看護師>薬剤師その他
残念ですが(僕の居る)小さい病院でも、このヒエラルキーは健在です。そしてこいつのせいで、病院薬剤師たちは何度も悔しい思いをして、仕事してきました。
目立たない仕事の例
医師が抗がん化学療法(ケモ)オーダーを急に変更
抗がん剤の様なアブナイ薬の急な変更をリカバリーしても、病院薬剤師は賞賛されません。(病院薬剤師の地味な仕事です)
どうしてかというと、まず功績は目立たず医師のものだから。正しく投与できても医師のお陰です。
具体例を挙げると、がん化学療法(ケモ)の薬は使用する日の前の週木曜日までにオーダーします。たとえば2020年8月17日(月)に使用するなら、8月13日(木)の昼までです。木曜日の夕方発注➡金曜日に取りそろえる為です(金曜日に欠品で入らない場合も多く、欠品リスクも大きすぎるので木曜昼がリミットなんです)。
ですが、医師が飛び込みで薬を使いたいなどと言って、月曜日の点滴中に「トラスツヅマブも今から入れて」などといきなりオーダーをしてきたりします。当然薬剤部は大混乱です。そんな高額な薬(1人分で15万円とかします)をいきなり用意なんてできない。で、できないと告げると「待たせるから急配して作れ!」などとなるわけです。ヒエラルキー的に医師が強いので、病院薬剤師はその命令に従うしかなく、その仕事(?)でお昼休憩潰されることもしょっちゅうです。
ですがこういう仕事には、患者さんは気付きようがないのです。
医師が抗がん剤の処方量を勘違いで半分で指示
これも僕の目の前で起きた本当の症例です。病院薬剤師の僕の仕事は、ミスの発見・リカバリーでした。
ゼローダ錠300㎎という薬があるのですが、それを外科医はMさんに8錠/1日2回朝夕食後 で渡さないといけないところ、4錠/1日2回朝夕食後 でオーダー。それで僕に電話していった言葉は
○○くん、お前の作った化学療法計算シート間違ってるぞ。Mさんに8錠なんて倍量投与や。4錠でオーダーしといたから、シート直しといて!
待ってください。4錠なんて聞いたことない少なさですよ。もう一度添付文書読んでくださいよ!
おれICと手術で忙しいんだよ。電話するなら1時間後な!
で、案の定添付文書には、Mさんの場合は「8錠/分2で投与」と書いてありました。間違った薬を間違った指示で出してしまったので、変更させます。で、僕は外科看護師・調剤薬局・患者本人に電話。8錠に処方しなおしてもらい、患者さんは薬局もどって不足分ゼローダを取りに来てもらいました。医師にはその1時間後に電話しました。
ですがこの医師「気が付いたんなら直しとけ・リカバリーしろ」と病院薬剤師に命じただけでした。明確なミスなのに、自分でリカバリーもせず・薬剤師(僕です)を労いもせず。これもヒエラルキー的に医師が強いから、仕方ないんですね・・・。
病院薬剤師の影での仕事は、決して患者さんからは見えない物でした。
医師の高カロリー輸液の混注指示のミス
高カロリー輸液の指示ミスでも、病院薬剤師はやっぱり気づかれない仕事しています。そもそも高カロリー輸液はどんなものかというと、こうです。
●目的:名前通りとてもカロリー高く、点滴だけで一日の栄養を賄えたりする。
●投与方法:(弱い)普通の静脈ではイカレるので、(強くて太い)中心静脈に点滴。
●注意:ビタミン製剤を併用混注しないと、アシドーシスを起こして致命的。
・・・最後の「注意」ですが、ビタミン製剤を混注しないと危険なんです。この点滴を出す時は「ビタミン製剤」を混注しないといけませんが、その指示をよく忘れられます。病院薬剤師が勝手に処方触れないので医師に確認すると
処方医
病院薬剤師の仕事だ。責任もって直しとけ!
の一言です。もちろん病院薬剤師の権限では注射オーダー直せないので、医師権限を借りる➡病院薬剤師が注射処方を直す➡調剤しなおす、という流れになります。結構危険なミスなのですが、直してもだれもほめてくれません。
患者さんの「咳がつらい」の訴えも・・・
病院薬剤師は病棟業務という大事な仕事があり、患者さんと直接喋る事も多いです。それが遣り甲斐でもあるのですが。
患者さんの「咳がつらい」の訴えを聴けた場合、医師に追加処方を提案します。
もちろんただ「咳止め薬の名前を挙げる」だけではダメです。
●当院採用薬である
●患者さんの疾患・服用薬的に禁忌ではない薬である
●患者さんの嚥下状態的に、可能な剤型である
●薬効の違う第2候補まで考えておく
これらを全て満たす薬を、医師に電話して提案➡OKでたら処方を待って調剤・投薬です。
ですが咳止めをこうしてもっていっても「内科医の〇〇先生、ありがとう」となる場合が多いです。
患者さんは助かったから嬉しいですが、頑張っても反映されないのがちょっと辛い部分です。病院薬剤師の仕事は、やっぱり目立たない苦労なんですね。
医師がクロといったら、シロでもクロになる(爆)
繰り返し院内ヒエラルキーの事を書き続けました。会話の流れ的に、病院薬剤師は見下されてる感が解ると思います。ですが究極は「ルールさえも破られる」という事です。
以下は僕の実体験です。僕の病院では「処方の代行入力」というものがあって、「処方は本来医師が行う物だけど、(医師が忙しい為)病院薬剤師が行う場合がある」という事です。この病院薬剤師が行う場合というのは、ルール上で「他院の薬を処方する場合は、当院ですでに入力された処方のコピーでだせるものに限る」とあるのです。だから他院でもらった薬を飲んでいて、明日から切れるから処方する場合は医師の仕事なんです。ですが、
医者は少なくて忙しいんだよ。やれっていったらやれ!そういうルールだ!
こうやってルールは破られます。薬局長も結局諦めて、初回なのに代行入力する羽目になりました。
残念ですが、病院薬剤師は従うしかない立場なのです。いやいや医者の仕事をやりました。
「病院薬剤師がやって当たり前じゃないのか?」
こうやって言われます。言い訳がましいような具体例ばかりでしたね。
たしかに抗がん剤とか、高カロリーの指示ミスとかは病院薬剤師の仕事で、きがついて当たり前の事だと思います。ですがやったところで医師は「お前らの責任だ」と押し付け、患者さんは病院薬剤師の仕事に気がつかない。それなのにスルーした場合は、病院薬剤師も責任に問われる立場。
理不尽だと感じて、悪いでしょうか?
さんざん病院薬剤師の苦労を書きましたね。僕は色々な立場で「薬剤師の仕事」をやっているので、職種ごとの仕事の理不尽さは色々知っています。調剤薬局の理不尽、ドラッグストア薬剤師の理不尽、漢方薬剤師の理不尽、そして病院薬剤師の理不尽・・・。どの理不尽になら耐えられて、遣り甲斐が一番あるのはどれか。そこから職種を選べばいいと思うんです。
おわりに:それでも僕が病院薬剤師をえらぶ理由
個人的な話なのですが、僕が病院薬剤師を選んだ理由。それは「上記の理不尽は、他の薬剤師よりも小さい」「仕事の遣り甲斐はダントツて多い」と感じるからです。僕はドラッグストア薬剤師でいわれのない割引クレームやら粗相の処理やら、ヤクザの相手とかをする方がよっぽど理不尽でリスキーだと思っています。
調剤薬局でも、理不尽は沢山経験しました。
これは調剤・病院関係なくどこでも同じ苦労をします。病院薬剤師の目線から書きましたが、どこに行っても責任は同じだという症例です。
ですが良いところもあります。自分の仕事で周りを変えられるのは、病院薬剤師が断トツです。さっきの咳止め提案のお仕事だって、患者さんの喜ぶ顔は遣り甲斐でもあるんですね。
遣り甲斐にかんしては、こちらどうぞ。
病院薬剤師も考えたい、目指したい貴方は、こちらをどうぞ。
病院薬剤師を目指すあなたにオススメ
僕は転職エージェントに10社位登録し、4回も転職経験した薬剤師です。転職のベテラン(笑)です。
そんな僕が病院薬剤師の案件探しの時、たいへん役に立ったエージェントを3社紹介します。
薬剤師転職の王道!エムスリーキャリア 薬剤師の求人・転職なら「ファルマスタッフ」 薬剤師専門の転職支援サイト≪登録無料≫
コメント
[…] […]