覚えるのメンドウな薬といえば、利尿薬ですね。教科書の無味乾燥な説明文と、図解が覚えにくいんです。ですが、ちょっと発想を変えると、ラクになりました。
【水はNaと共に動く!】
Naイオンは、水和数が高いイオンです(うろ覚えですが、周りに23個のH2Oが有ると言われます)。つまりNaイオン1個=H2O分子23個をくっつけて動くのです(!)だからNaを捨てれば、水も自然と捨てられるのです。
じゃあ他のイオン・・・Kも、Clも、水和しています(水和数は忘れた)。これらも捨てると、利尿効果は高まります。
①ループ系利尿薬:Na、K、Cl全て捨てる=利尿効果は高い(Na+K+2Cl)
②チアジド系利尿薬:Na、Clを捨てる=利尿効果は中程度(Na+Cl)
③K保持性利尿薬:Kを回収し、Naを捨てる=利尿効果は低い(3Na-2K)
ループはなんでもかんでも捨てる=その分すべてにくっついて、H2Oも捨てられまくり。
【作用点が出口に近い=強い効果】
作用点が出口に近い利尿剤といえば、トルバプタン(サムスカ®)!
どうしてこれが強いのか。作用点のV2受容体は、糸球体から最も遠く、集合管の出口付近にあります。・・つまり、挽回ができない。ループ利尿だと糸球体に近いから弱いのですが、それは出口付近のV2受容体が働いて、「なんだか出ていく水がおおいな。よし、出ていく水を回収しよう」って働く(つまり弱める機構がある)からです。でも出口にあれば、それはない。
どの位強いかというと、トルバプタン(サムスカ®)導入入院が存在する位です。「急激な水利尿」とかかれ、警告までされています。
【機能形態学:そもそもの尿細管の働きは?】
オシッコが出ないという病態を知るには、まずそもそもどうやってオシッコが作られるのか、という機能形態を知る必要があります。こんな感じですね。
まず糸球体で血液が漉しとられる。それが近位尿細管で、
●必要なイオン3つを吸い上げる
●必要な2イオンを吸い上げる。
●酸を出し、Naを回収する
●Naを回収し、Kを出す。(アルドステロン刺激による)
●アクアポリン2が、H2Oを大量に吸う。(V2刺激でアクアポリン2が作られる)
こんな順番で要らない物を捨て、必要な栄養をのがさず回収します。
Naは体にとって必要な栄養素です。そもそ人類の440万年の歴史はほとんど、貧塩とのたたかいでした。貴重な塩を逃すまいと、尿細管ではNaを吸い上げているのです。
でも現代社会では、Naを摂りすぎています。そもそも人間の体は「貴重なNaを逃すまいとしたシステム」で有る為、Naをだす機能は備わっていません。つまり塩を摂った分だけ、体に溜まってしまいます。
【病理学:どうして高血圧が起きるのか?】
前述のとおり、人間の体はNaイオンを逃さない構造です。貴重なNaを保持する為のシステムが、レニン・アンギオテンシン系です。逆に過剰なNaを捌くようには出来ていないので、どんどんたまります。
Naがたまると、Na1原子が23個のH2Oをつれてきます。H2Oが増えれば、そのぶん血管は膨らんでパンパン。パンパンになる=血圧上昇です。
血圧上昇をほかっておくと・・・輸入細動脈・糸球体も圧に耐えれず破れる➡血管が傷ついて出血・硬くなる(動脈硬化)。また大穴が開けばネフローゼ症候群を引き起こす。
●尿崩症の方(そもそもバソプレシンが分泌されない)
●バソプレシン刺激➡アクアポリン2の開口➡H2Oを大量回収、が止まってる。
●糸球体で漉しとる水分量(1日180Lくらい!)がほぼそのまま、尿に。当然ひどい脱水してしまう。
●治療薬は当然、バソプレシンの投与である。デスモプレシン・鼻スプレーなど。
※この尿崩症状態を少しだけ、意図的に作るのが「トルバプタン」である。
・・・だから薬というのは、捌けない過剰なNaを、捨てる方向のものが多いです。利尿剤はまさに捨てる方向の薬です。
【薬理学:ループ利尿剤の作用は?】
ループ利尿薬の作用はこの様になります。
①Na+/K+/2Clポンプを阻害する。
②Na+、K+が減少。Na+につられ多量の(一説にはH2O×23分子)、K+につられ少量の水も尿中に残る。
③結果:Na+、K+減少、水分減少の為に血圧も低下。
④体は「脱水している」と感じる為、バソプレシンUP➡ラストのH2Oチャネルが開いて回収する
こんな流れです。金属イオンを大量に捨てるので、水分減少も大き目です。ただし、水分減少➡バソプレシン分泌でV2刺激➡ラストの水分取り込みも増加、となります。つまり水分減少はバソプレシンのせいで少し中和されています。
じゃあ、バソプレシンそのものを止めたら歯止めなく水分が出ていくんじゃないか・・・それがトルバプタン(サムスカ®)の効果です!
【薬理学:チアジド利尿薬の作用は?】
チアジドは、近位尿細管の「Na+/Cl-共輸送」をとめる薬です。作用としてはそれだけですが、
①Na+/Cl-ポンプを阻害する。
②Na+、Cl-が減少。Na+につられ多量の(一説にはH2O×23分子)も捨てられる。
③結果:Na+減少、水分減少の為に血圧も低下。
④体は「脱水している」と感じる為、バソプレシンUP➡ラストのH2Oチャネルが開いて回収する
ただし、捨てるのはNa+だけ。K+は捨てません。だから利尿効果も、Naが引き連れるH2O分子の分だけ、そこまで強くないです。ただし血圧低下効果は、ループよりも上です。
【薬理学:k保持性利尿薬の作用は?】
K保持性利尿薬は、アルドステロン受容体をとめる薬です。アルドステロンは前述のとおり、貴重なNaを逃さないためのホルモンですからね。それを止めるので・・・
①アルドステロン受容体を阻害する。
②Na+回収、K+廃棄が止まる。つまり利尿効果は、Naの23分子ーKの数分子ぶん、と小さめ。
③結果:Na+減少、K+上昇。利尿・水分減少はわずかだけ。
④体は「脱水している」と感じる為、バソプレシンUP➡ラストのH2Oチャネルが開いて回収する(これも小さい)
こうやって、名前のとおりKを保持するのです。
私は現場で働いていて、K保持性利尿薬を利尿目的でつかっているの、見たことありません。たいていカップラーメン・コンビニ弁当のたべすぎ(Naが多く、Kが少ない食べ物)で、ミネラルバランスがくずれている人とかに、使っています。※病院薬剤師であれば、栄養士の食事指導記録も見られるので、カップラーメン食べすぎとかも解る。
【薬理学:トルバプタンの作用は?】
前述のとおり、とても作用が強いと話しました。どうして作用が強くて危険なのか。
図で書けば解り易いですが、水分回収の(ほぼ)最後の砦を、とめてしまいます。すると、H2Oチャネル(アクアポリン2)が閉じる=尿細管からのH2O回収ができない➡利尿です。
ただH2Oチャネルが閉じるだけ。Na,Kに影響ない!
・・・と考えないで!
脱水する=血中のいろんなものが濃縮します。臨床医学で習っている、検査の知識も動員しましょう。濃縮して一番困る検査値は、範囲が狭い物ですね。・・・そう、Naイオンです。
Na+ | 135~148 |
K+ | 3.6~5.0 |
Ca | 8.4~10.2 |
この通り、Naイオンは135~148の10%しかズレが許されません。それに現代人は、ただでさえ高めの方が多いです。水分量が急減➡Na濃度も急上昇。だから怖いんです。
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