アルコール中毒患者さんは、対応難易度が高めです。
①入院での離脱症状に注意
②肝障害ほぼありなので薬が難しい
③アルコール依存独特の注意がある
①入院中の離脱症状に注意
薬理学の範囲の話です。薬物の離脱症状と似ていて、やっぱりアルコールにも離脱症状があります。
それで耐えられなくなって、ひそかに外出➡アルコール摂取、となる方が多いです。
そこで、嫌酒薬(けんしゅやく)を使います。薬剤師さんなら国家試験で覚えたはずの薬です。
①ジスルフィラム(ノックビン®)
②一部のセフェム系抗生剤
(ラタモキセフ、セフメタゾール、セフォペラゾン:辞めたらメッタラ酔っ払う、の語呂合わせで)
これらですね。ジスルフィラムとN-メチルテトラゾールチオメチル基は似ても似つかないですが、体内で同じ働きをします。
薬剤師国家試験でも覚える薬です。N-メチルテトラゾールチオメチル基やジスルフィラムは、アルデヒドの代謝を止めてしまうのでアセトアルデヒドが溜まり、それが激しい吐気・赤ら顔・不快感・酒臭さを引き起こします。これが嫌酒効果ですね。
こういう働きです。
あれ、これどっかで見たことありませんか?・・・アルデヒド脱水素酵素が止まるといえば、お酒飲めない人です。そうです、お酒飲んで気持ち悪くなる人を、薬で作り出すのが嫌酒薬です!
解ったけど、いつ使うの?方便つけてジスルフィラムの白い粉をどうやって飲んでもらうの?抗生剤もむやみに使えないし
そうなんです。でもこの人が肺炎で入院した時の抗生剤にしてはいかがですか?
そうです。先日僕は、アルコール中毒で肺炎の方(××さん)を見かけました。肺炎なので抗生剤「スルバシリン1.5g×2Vial 1日2回」が処方されていたのです。
でもこの人、精神不安定で酒の離脱症状、よく隠れて飲酒していたと記事にあり。
じゃあ抗生剤も、「肺炎の改善効果」と「嫌酒効果」を両方狙って、当院採用薬のセフメタゾール1g×2Vial 1日2回にしてはどうか。と考えました。主治医に許可頂いて、早速処方を変えました。「まさか抗生剤で、アルコール依存に対処できるなんて!」と主治医は驚いていましたね。
③アルコール依存独特の注意があります。
今度は衛生薬学の範囲の話です。
さっきのアルコール中毒で肺炎の××さん。発熱したので解熱剤が必要です。でも解熱剤、なに選べばいいのか?と思いました。解熱剤って何を思い浮かべますか?
●アセトアミノフェン錠
●NSAIDs系(ロキソプロフェン、ケトプロフェン、ジクロフェナク)
●ピリン系(スルピリン)
●SG顆粒(アセトアミノフェン+スルピリン)
アセトアミノフェン=安全な解熱剤のイメージがあるはずです。
●小児の解熱で唯一使える
●インフルエンザの解熱で唯一使える
●NSAIDs潰瘍の既往があっても使える(潰瘍中はダメ)
➡炎症部位で直接効くNSAIDsと違い、中枢の発熱物質をとめる薬理
●腎障害でも使える
でも安全じゃない時もあります。それは、アルコール中毒者に使う場合です。
こういう事件(wikipediaへリンク)もありましたよね?昔から知られている、安全なはずのアセトアミノフェンの毒性です。
アルコール中毒で胃が荒れているだろうから、解熱剤はロキソプロフェンではなくアセトアミノフェン200㎎錠×2錠でした。1日で2回のみました。
ですがこの方、入院時は正常だったAST、ALTが急上昇して3桁に。γGTPも上昇。そこで勘付いたのです。
アセトアミノフェンの代謝スイッチングだ!
この肝機能の上昇は、薬剤師の僕➡アセトアミノフェン中毒と考えました。
理屈ですが、本来こうなるはずのアセトアミノフェンの代謝ですが、
・・・アルコール依存患者では、こうなります!
抱合って、習いましたよね?アルコールの抱合で、グルクロン酸・硫酸・グルタチオンが全部消耗しています。で、行き場のなくなったベンゾキノンイミドが肝細胞にくっついて、肝細胞が壊死。となるわけです。おそらくこの××さんの体内で起こるだろうことです。
でも医師➡肺炎そのものでの細胞傷害・セフメタゾールの過量投与 の可能性もある。と考えました。やっぱり医師・薬剤師で観点が違うんですね。どちらが正しいのか分かりませんが、医師はとりあえずセフメタゾールの減量を行いました。それでもだめなら解熱剤を別のものに変えるそうです。
後日談
セフメタゾールのジスルフィラム様作用でアルコール対策はバッチリ、と考えていましたが、主治医曰く「隠れ飲みの可能性否定できない」とのことでした。僕ら薬剤師は薬理で考えてバッチリだと思うのですが、患者さんは教科書通りにはいかないですよね。
どうしても薬剤師=薬だけで考えがちです。別記事にも挙げた通り、視野の狭さに気が付きます。
コメント