病院薬剤師の具体的な仕事って、想像つきますかね?
病院薬剤師をやりたい。でも一歩踏み出したいのに、調べてもあまり解りません。
この記事を書いている僕は、病院薬剤師経験3年になります。今までの薬剤師経験はわりと多様で、「〇〇と比較して 病院薬剤師は~」と比較検討しやすい立場なので、書かせていただきます。
具体的な業務(病棟業務以外)
DI業務
いつでもかかってきます。薬剤師=薬の専門家なので、薬関連のギモンはなんでも薬剤師にきます(当然ですよね)。こんなことは想像つくと思いますが・・・。
具体的にいうと、忙しい月曜日午前中に「授乳婦さんに緊急処置したいから、鎮静剤のドルミカムをい使いたい。使用OKなら授乳まで何時間あければいい?だめなら代替薬は?」といった難易度の高いものもきます。
別の例を出すと「訪問看護で、オキノーム2包をのんでいる方がいる。もう粉薬はきつくなったから、水剤の麻薬鎮痛剤に変えたい。何をどれだけ使えばいいか?」といった内容です。それも数時間後に訪問看護行くのだから、それまでに薬をもっていきたい、というような切羽詰まった状況です。
DI業務はなかなか奥が深いものなので、別記事に挙げさせていただきます。
高カロリー輸液の注射箋修正・調剤・ミキシング
高カロリー輸液の注射箋は、ちゃんと鑑査しないと(アシドーシスや栄養失調などで)命にかかわります。医師の注射箋がヘンなら、薬剤師が修正かけます。
高カロリー輸液のミキシングは毎日、10時半までに行います。この時間は高カロリー輸液の点滴は、1日2回(11時と23時)と決まっていて、それに間に合う時間なのです。
ミキシングは「クリーンルーム」というスペースで行います。どうしてクリーンルーム使う位厳重なのかというと、高カロリー液は(雑菌にとっての栄養も豊富な為)雑菌がわきやすい為です。
※日曜日・祝日の高カロリーは・・・薬剤師が出勤しない以上、看護師さんがミキシングしています。
抗がん剤のレジメン修正・調剤・ミキシング
抗がん剤のレジメンがヘンじゃないか、チェックします。ヘンだというのは患者さんの体格にしては少なすぎるとか、順序がおかしい、あるべき薬がない、などといった事です。
・・・これがレジメンの例です(大腸がんで代表的なmFOLFOX6について)
当然、処方した医師に電話確認して、訂正かけます。
これがOKだったら調剤(ピッキング)・ミキシングをします。
ミキシングは医師からの「〇〇さんは抗がん剤投与してOKです」というゴーサインもらってから行います。それだけ厳重なのは、抗がん剤は体力落ちていたら効果がでず、苦しめるだけだからです。それにつめてしまってから「今日使わないよ!」となれば、1本20万円とかの抗がん剤がムダになるわけです。
ミキシングは「クリンベンチではなく安全キャビネット」で行います。私たちへの被曝防止の為ですね。このミキシングは手技的に難しく、下手するとバイアルから(危険な)抗がん剤噴き出してかぶってしまいます。
入院患者注射せんの調剤・鑑査
調剤:基本的には、注射箋通りに作ります。
鑑査:薬の溶媒がヘン、前後のフラッシュが無い、抗生剤の投与期限が過ぎている、高カロリーなのにビタミンの併用がない、などは全てDrに確認します。
●薬の溶媒は正しい?(例:フェジン静注40%の溶媒が生理食塩水だった➡10%ブドウ糖に変更してもらう)
●薬の投与経路は正しい?(例:ピーエヌツイン1号液が末梢投与になってた➡中心静脈に治してもらう)
●薬の投与日数は正しい?(例:特定抗菌薬なのに、14日以上投与していた➡抗菌薬を変更してもらう)
●(特定生物薬は)書類はちゃんとある?(例:アルブミナー25%静注なのに、特定生物薬の書類が挟まれていない➡書いて挟んでおく)
入院患者処方せんの調剤・鑑査
調剤:院外薬局と基本的には同じで、処方箋通り作ります。
鑑査:院外薬局と大きく違うのは電子カルテの豊富な情報源をもとに、鑑査するからです。必要な情報のみ抽出しないといけません。
鑑査内容ですが、病院は結構難しいですよ。
●処方箋内容⇔注射薬 とを突合しないといけない(例:ビオフェルミンR錠が処方なのに点滴抗生剤が出ていないから、ビオフェルミンRを変更依頼する)
●電子カルテの豊富な情報を使う必要あり(例:「PEG作成、PEG栄養」と記載あるのに、カロナールが錠剤のまま調剤:Dr確認して、粉砕をお願いする)
結構難しいんですよね。
各種委員会への参加
病院薬剤師は、通常業務のほかにいろんな役割(委員会)に参加しています。
執行部会議 | 薬剤科長。病院経営・収益化のためにどの算定を狙っていくか、 人員配置は、といった事を検討します。 |
薬事審議会・医局会 | 薬剤科長。医師が新薬を採用依頼➡薬剤師がDIを取得・医師に伝達。 1剤採用=1剤は採用中止するので中止候補役をいくつか挙げます。 |
システム委員会 | 電子カルテの運用方法など。 |
化学療法・パス委員会 | がん化学療法のレジメン内容や一連の流れを話し合います。 パスの運用方法が正しいかも検討、 ダメならパス新作・パス内容変更などします。 |
輸血療法委員会 | 赤血球製剤・成分輸血(血友病の凝固因子・グロブリン注射) の使用量報告と、多かった場合の代替案の検討、 安全な管理方法の話し合いです。 |
災害対策委員会 | 大災害でが起きたときの受け入れルールを話し合います。 勿論トリアージを使います。 災害時訓練、避難訓練がそれぞれ年1回ずつあります。 |
在宅支援委員会 | 患者さんの退院後、質の高い医療を継続のための方法を考えます。 |
医療安全委員会 | 医療事故を防ぐため。 小さなミス例と、その再現性ある防止策を話し合います。 |
感染対策委員会 | 院内感染防止の為。 インフルエンザや新型コロナの流行度に応じて 「面会制限」「面会禁止」といった措置も決定します。 |
具体的な業務(システム担当者のみ)
薬の電子カルテへの登録(システム担当者のみ)
「当院で使ったことない薬を使いたい」・・・そんなときは電子カルテに、薬を登録しないといけません。
例えば2020年8月から「ルムジェブ注射」が使いたい場合。電子カルテは勝手にアップロードされて、2020年8月発売開始のルムジェブが勝手に入力できるようになる・・・わけではありません。
(そんな事できたら、電子カルテはデータがパンパンで重たくなる&誤作動するし、たとえば「アムロ」と打っただけで世の中全てのアムロジピン100種類以上がヒットしてしまいます。)
ですから必要な薬は自分たちで登録➡サーバーアップデート➡電子カルテ再起動、とやって使用できるようにするのです。
化学療法のパス登録(システム担当者のみ)
化学療法の注射薬は、(ほとんどの病院では)わざと注射せん入力できないようになっています。
その理由は、自由自在に入力できてしまうと、無数にレジメンができてしまうからです。世の中に存在しないレジメンや、危険とされて停止されたレジメンまでも打ててしまいます。ですから自由に入力できるのではなく、あらかじめ「クリニカルパス」と呼ばれるセットの中から、選ぶようにするんですね。
このセット(レジメン)を作り上げるのが・・・もうお分かりですが、薬剤師の役割となります。組み上げるセットの例は、こちらを参照下さい。
具体的な業務(病棟業務)
抗がん剤の服薬指導
慣れてきた薬剤師しかやりません。難しいからです。
●レジメン名と、入力薬が正しいか
●全告知or 一部告知or未告知を把握する
(本当は胃癌で肝肺転移でも、本人は胃癌という一部告知しか受けてない場合がある)
●その抗がん剤レジメンが初回か・それ以降か(初回ならパンフレット必須)
●副作用を把握しきる(抗がん剤は副作用が強い為)
こんな事を把握しきってから、指導に向かいます。
病棟ストック薬の管理
病棟にもある程度、薬ストックがあります。それは「よく使う薬・一秒を争うときに困る薬」です。
これは病棟ストック薬の一例です。
フィジオ35点滴静注 | 栄養状態悪くなった時、こういう栄養剤をすぐ使う |
ソリター3号液500mL | 経口摂取できない・脱水時「取り敢えず」使うから |
プレドパ静注キット600単位 | 心停止が差し迫った時、1秒でも早く使いたい |
アドレナリン皮下注シリンジ1㎎ | 血圧低下時に1秒でも早く使う |
ブロチゾラム錠0.25㎎(1/2錠) | 眠れない訴えの時、素早く渡せる |
ロキソニン錠60㎎ | 酷い発熱・痛みの時に素早く渡せる |
レバミピド錠100㎎ | ロキソニンの胃薬として併用 |
センノサイド錠12㎎ | 入院中便秘する人は多く、即効する為 |
ベルソムラ錠15㎎ | 弱い眠剤だがふらつき転倒リスク無。高齢者に汎用 |
プリンペラン注射 | 吐き気をもよおす時 |
ノルアドレナリン静注1㎎ | 血圧低下時に1秒でも早く使う |
こんな薬は「病院西棟の薬剤部まで走って、鍵をあけて、膨大な薬の棚からアドレナリンを捜して・・・」とやってる時間はありません。ですから病棟にストックしておくのです。
前置き長くなりました。こういう病棟ストック薬は朝になるとかなり減っていたりします。定数を決めて、その個数になるようにストック薬を補充するのです。
入院中指導
指導するタイミングはこの通り。
●薬が新しく処方された
●薬の用量変更した時(中止・増量・減量)
●<DPC病床の場合>上記なくとも、週1回以上は努力義務。
●<地域包括ケア病床の場合>よほど指導しない。
【入院中指導する目的】
●「正しい薬を、正しく体に入れ続ける為の障害を取り除く(リンク参照)」が目的
【入院中指導できる患者さん】
●会話が成立する方である事(寝たきりでも認知無・意識クリアであれば指導できる)
このような感じです。
なお難しい服薬指導にも出くわしますが、基本原則はみな同じです。
退院時指導
退院時指導は入院中指導よりずっと大事です。どうしてかというと、退院したらもう、医療者の目が届かなからです。危険なワーファリンなどを誤服用しても、次回受診日の1か月後まで気が付けない、なんてこともあります。じっさいこういう危険な事例もありました。
くわしい退院指導のやり方は、この上記記事の後半に書かせていただきました。
業務以外の内容(労働時間・休日など)
これも気になる内容ではないでしょうか?おおむね、どの薬剤部でもこんな感じだそうです。
小病院(薬剤師5人以下)の場合
小さい病院では、薬剤師は基本平日昼間しかいません。(当番者・待機者がパンクしてしまう為)病棟業務はこれ以外の時間はいっさい、行いません。
月曜 | 8:45~17:30 常勤(薬剤師全員) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
火曜 | 8:45~17:30 常勤(薬剤師全員) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
水曜 | 8:45~17:30 常勤(薬剤師全員) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
木曜 | 8:45~17:30 常勤(薬剤師全員) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
金曜 | 8:45~17:30 常勤(薬剤師全員) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
土曜 | 8:45~12:30 土曜当番(薬剤師1人) 17:30~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
日曜 | 8:45~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) | |
祝日 | 8:45~翌日8:45 電話待機(薬剤師1人) ※3連休時は10~12時出勤・注射薬調剤のみ行う・残業代は沢山もらえます |
こんな感じです。じゃあ日曜日だとか平日夜に院内処方がでる、DIの問合せがあるとなると・・・「電話待機の薬剤師」に、連絡がきます。どうしても出してほしい薬(例:ひどい激痛だから麻薬鎮痛剤オキノーム散を開始する)の場合は、家から病院までかけつけて対応するのです。でも呼出しなんて年1~2回くらいです。
この場合、たとえ10分の労働時間でも時間外の割増料金で1時間分、残業がつきます。こういう所は病院、しっかり保障しています。ただし車で駆け付ける為に、待機当番の日はお酒飲みません。
勤務のタイムスケジュールの例はコチラです。(病床100強の急性期病院・医薬分業率100%弱)
中病院(薬剤師7~30程度)の場合
基本的には平日昼間しか、薬剤師はいません。が、違うのはそれ以外の時間です。それ以外の時間に電話待機ではなく、当直の薬剤師が院内にいる事です。
月曜 | 8:45~17:30 早番薬剤師 10:00~18:45 遅番薬剤師 18:45~翌日8:45 当直 | |
火曜 | 8:45~17:30 早番薬剤師 10:00~18:45 遅番薬剤師 18:45~翌日8:45 当直 | |
水曜 | 8:45~17:30 早番薬剤師 10:00~18:45 遅番薬剤師 18:45~翌日8:45 当直 | |
木曜 | 8:45~17:30 早番薬剤師 10:00~18:45 遅番薬剤師 18:45~翌日8:45 当直 | |
金曜 | 8:45~17:30 早番薬剤師 10:00~18:45 遅番薬剤師 18:45~翌日8:45 当直 | |
土曜 | 8:45~12:30 土曜当番(薬剤師数人) 12:30~翌日8:45 当直 | |
日曜 | 8:45~翌日8:45 当直 | |
祝日 | 8:45~翌日8:45 当直 |
●電話待機:基本家にいて、電話なったら出る。場合によっては病院へ行く。
●当直:基本当直室で寝泊まりしている。コールの時のみ起き、院内で仕事する。
●夜勤:普通に20時~翌日8時とかで勤務すること。夜通し働くこと。
こんな感じです。もちろん(小病院より)薬剤師の数が多いため、当直がまわってくる回数は(小病院の電話待機に比べて)少なくなるのです。
ちなみに(薬剤師30人とかいる)大病院の場合は、当直が夜勤に変わります。
病院薬剤師の給与について
とても大事ですよね。
具体的な数値を挙げられませんが、僕の情報を参考にしてください。
僕は30代中盤でドラッグ薬剤師➡卸薬剤師➡病院薬剤師と転職しています。が、病院2年目ですでに、ドラッグストア時代に殆ど追いついてしまいました。
ドラッグストア | 病院 | |
公休数 | 110日 | 120日 |
勤務時間 | 9:00~18:00など ※他店ヘルプで変則的 | 8:45~17:30 ※ヘルプ無で規則的 |
年間給与 | 550万 | 540万 |
有給消化数 | 0日 | 10日 |
サービス残業の強制 | 月5時間(平均) | なし |
※給与は「児童手当」「扶養手当」「住宅手当(家賃補助)」を除いています。
※ドラッグストア時代は働き方改革前でした。しかし働き方改革後の現在でも、あまり変わらないと後輩情報ありです
・・・「安い」といわれる病院薬剤師ですが、(昇給がちゃんとある為)30代半ばにもなるとほとんど変わらず、もうすぐ逆転することが解りました。
病院薬剤師の給与っていくら貰えるの?
ドラッグストア・調剤薬局だと給与は聞きやすいですよね。人事部の方がみえるし、ネットでちゃんと公開していますから。
でも病院薬剤師って給与は聞きにくいですよね。専用の人事がいなかったりするし、ネットでもちゃんとした額を書いていない。
・・解決策は、「ズバリ、病院に直電して人事担当につないでもらう。名前・年齢・経歴を伝え、教えてもらう」に限ります。
・・・え、勇気がいるって?心配ありませんよ。電話しても、次の日には貴方の事を忘れていますから大丈夫です。べつに失礼でもありません。(僕も直電して基本給で26万強貰えることなど確認しましたが、いざ応募した時は忘れられていましたから)
病院があまり給与公開していないのは、「教えられないほど安いから」ではありません。「給与の載せ方を知らないから」です。じっさいそんなに安くない事は、この前の項でお伝え済ですよね。
おわりに:病院薬剤師の業務について書いた理由
僕自身が、4年前に病院薬剤師を志したからです。それで病院薬剤師とは何か、すごく調べたのですが、あまり的を射る記事がありませんでした。抽象的でわかりにくい、具体的に僕の生活はどうなるの?って思いました。
「病院薬剤師とは、他の調剤・ドラッグストアとくらべてこうです」といった違いを書けば、解りやすいのじゃないかと思いました。僕が4年前に悩んでいたのだから、いまだって同じような悩みの方は多いはずではと。そこでは僕の特殊な職歴(調剤薬局・ドラッグストア・漢方薬局・派遣薬剤師・卸薬剤師・管理薬剤師の全て経験済)が生きるのじゃないか、と思ったのです。
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