将来性のある製薬会社の株は?

2010年~2021年8月現在までの製薬会社の動向

順位社名ティッカー2006PER配当利回りリターン成長率連続増配2020
1ファイザーPFE45,0835.133.565.35%0.52%47,644
2グラクソ・スミスクラインGSK39,3358.113.251.63%-2.16%23,6481GBP=1.3867USDで換算
3サノフィ・アベンティスSNY37,46110.372.483.51%-0.44%30,3981EUR=1.184USD
4ノバルティスNVSスイス29,49110.121.675.19%4.89%48,659
5ロシュRHHBYスイス27,31812.352.412.01%5.11%41,6651CHF=0.9363USD
6アストラゼネカAZN25,7417.262.318.49%0.75%25,890
7ジョンソン・エンド・ジョンソンJNJ23,26711.712.218.59%5.23%45,572
8メルクMRK22,63612.843.367.23%3.42%35,251
9ワイス(現ファイザー)WYE16,88450.39
10イーライ・リリーLLY14,81612.932.9311.42%3.96%23,754
11アムジェンAMGN14,26821.97010.23%4.88%24,214
12ブリストル・マイヤーズスクイブBMY13,86119.134.478.97%7.60%42,518
13アボット・ラボラトリーズABT12,39516.281.186.98%7.07%34,600※医療機器売上
14ベーリンガー・インゲルハイム11,637投資不可
15バイエル・シエーリングファーマ9,873投資不可
16武田薬品工業TAK日本9,613投資不可
17ジェネンテックDNA9,284
18シェリング・プラウ(現メルク)SGP8,561
19テバ製薬工業TEVAイスラエル8,40852.22
(割高)
0.79-6.61%8.63%16,659
20アステラス製薬ALPMY日本7,717投資不可
21ノボ・ノルディスクNVOデンマーク6,85818.81.6617.58%8.11%15,9381DKK=0.1579USDで換算
平均S&P500平均値100017.306.10%6.10%2291.531

2006~2020年の売上順位の比較です。リターンは良かったした企業には、共通点があります。

それは、「先発バイオ医薬品」に強い会社だという事です。バイオ医薬品どれだけ大事なのか、それは医薬品個別の売上ランキングをみれば一目瞭然です。ちなみに「分子標的薬剤」は、バイオ医薬品のうちの一部をさします。

リターン最高の17.58%をたたき出したノボノルディスクは、もちろん先発バイオ医薬品が主力です。その先発バイオ医薬品に属すインスリンは世界シェアトップで、売り上げの6割以上をしめています。

リターン2位の12.01%をだしたロシュも、やはり先発バイオ医薬品が主力です。抗がん剤系の先発バイオ医薬品を次々と開発販売しています。

リターン3位の11.42%をだしたイーライリリーも、先発バイオ医薬品が主力です。インスリンに加え最近では抗がん剤系の分子標的薬を作っています。

リターン最悪の「テバ」・「グラクソスミス」は先発バイオ医薬品をほぼ作れていません。「サイフィ」「ノバルティスファーマ」は、先発バイオ医薬品で失敗しています。これといった製品がありません。

今度は、薬剤別のランキングを見てみます。

【2020年 世界で最も売れた医薬品トップ20】(グラフ)(順位/前年変化/製品名/社名/億ドル/前年比): /1/→/ヒュミラ/アッヴィ/290.11/7.5 |2/→/エリキュース/ブリストル/ファイザー/173.90/28.3 |3/→/キイトルーダ/メルク/151.13/32.9 |4/→/イグザレルト/バイエル/117.29/12.0 |5/↑/ステラーラ/J&J/111.44/25.9 |6/↓/ランタス/サノフィ/103.02/3.0 |7/↑/トルリシティ/イーライリリー/98.50/34.4 |8/↑/ビクタルビ/ギリアド/92.50/69.6 |9/↓/エンブレル/ファイザー/91.87/▲ 5.7 |10/↓/オプジーボ/ブリストル/小野薬品/83.88/2.1 |11/↓/ジャヌビア/メルク/78.19/4.3 |12/↓/ノボラピッド/ノボノルディスク/71.69/▲ 2.9 |13/↑/ジャディアンス/BI/イーライリリー/70.57/44.2 |14/↑/イムブルビカ/J&J/66.69/17.6 |15/↑/レブラミド/ブリストル/63.97/13.0 |16/↑/オゼンピック/ノボノルディスク/63.77/146.3 |17/↑/アイリーア/バイエル/61.51/59.7 |18/↑/イブランス/ファイザー/61.05/9.8 |19/↑/コセンティクス/ノバルティス/59.77/18.7 |20/↓/レミケード/J&J/57.43/▲ 17.5 |※前年比は為替変動の影響を除く。米IQVIA調べ
answer Newsより引用

この通り。トップ10のうち8個は先発バイオ医薬品が占めています。ちなみに2008年のトップ10は、3個しかありませんでした。

投資家として製薬会社を買いたいとき、「先発バイオ医薬品(分子標的薬剤が含まれるグループ)」はもはや無視できません。

・・じゃあ、どうして分子標的薬剤をが強くなったのか?理由はこれだけあります。

【分子標的薬剤が強い理由】
●そもそも薬代が超高額である
効果が強く&副作用が弱めで、救えなかった命を救えるようになった
 理由:文字通り分子レベルで病原部位だけを狙う為。
●病原部位は一人ひとり違うため、病原部位の特定(がん細胞の遺伝子検査をする)を行う。
 ・・・同じ病名でも一人ひとり治療法が違ってくる、いわゆる個の医療の実践ができる

・・・この特徴をみても解ると思いますが、分子標的薬剤の躍進は「この10年の一時的ブーム」ではありません。「これが当たり前になっている」という事です。投資家目線でこれを言い換えると、「分子標的薬剤は長期的に利益をもたらす可能性が高く、強い会社は長期投資にうってつけ」という事です。

「個の医療」は言わないだけで実践中

10年くらい前まで聞いて、いまはあまり聞かなくなった単語に「これからは個の医療!」があります。

いま比較的耳にしないから、重視されていないのかというと・・・そうではありません。逆でして、「個の医療」が当たり前になったから言われなくなったのです。

以下は病院薬剤師で抗がん剤・抗生剤・薬システムを担当する私が目にしている内容です。

※かなり簡略化しています。病院薬剤師として管理人がみてきた「第一選択薬」の変化をかきました。

例:大腸がん再発・転移例の治療薬

 <2010年以前のレジメン>

 mFOLFOX6・FOLFILI が主力。個人個人の細胞遺伝子や体質は考慮せず、病名が決まったらみんなどっちかになってた。

 <現在のレジメン>

 mFOLFOX6・FOLFILIに「○○mab」をプラスする。どんな○○mabを追加するか、一人ひとりのがん細胞病理検査して決定する(KRAS遺伝子が変異あればP-mab、変異なければB-mabという風に)。つまり個の医療が実践されてきています。

薬剤名使用可能な患者さん
(個の医療)
販売製薬会社
P-mabKRAS遺伝子変異なしの人に使うアムジェン(武田)
C-mabKRAS遺伝子変異なしの人に使うBMS
B-mabKRAS遺伝子変異ありの人に使うロシュ、中外薬品

こちらも参考ください。難しい事書いていますが、ひとことで言えば「がん細胞の遺伝子検査➡相応しい分子標的薬を併用する流れ」になっています。要するに分子標的薬剤は使って当たり前、使用増の流れになっている事です。

大腸がんの「抗がん薬治療」治療の進め方は?治療後の経過は?
大腸がんの抗がん薬治療は、抗がん薬によって再発を予防する「術後補助化学療法」です。手術後、見えないがん細胞によってがんが再発することを、できる限り減らすのが目…

例:乳がんの治療薬

こちらも同じ流れができています。

例として、乳がんで「トリプルネガティブ乳癌(=TNBCと略します)」の方の治療薬。

【トリプルネガティブ乳癌(TNBC)について】
TNBC=Triple Negative Breast Cancer
●エストロゲン刺激での増殖・・なし
 ➡エストロゲンを打ち消す薬は無効
●プロゲステロン刺激での増殖・・なし
 ➡プロゲステロンを打ち消す薬も無効
●HER2受容体刺激での増殖・・なし
 ➡HER2刺激をブロックする「ハーセプチン等」も無効

➡3つともダメ・否定的なのでトリプルネガティブ乳癌とよばれる。

こんな感じでTNBCへの治療薬が見当たらず、仕方なく「正常細胞も一緒に叩く抗がん剤」しか使えませんでした。しかもこの手の薬はほぼ脱毛してしまうんです。

最後のHER2受容体阻害剤「ハーセプチン」というのは、分子標的薬剤です。勿論分子標的がない時代は、HER2陽性は進行が早い怖い乳がんでした。

<それが・・分子標的薬剤の登場で>

2001年に、分子標的薬剤のハーセプチンが登場。HER2陽性例の生命予後はずいぶんよくなりました。でもTNBCはまだ救えていません。

しかし2018年、TNBCにもついに治療薬が登場しています。それが「テセントリク静注®」でした。1本40万オーバーの超高額医薬品です。ようやくTNBCの方の、乳がん細胞だけを狙ってくれる薬が登場しました。

こんな風にして、抗がん剤治療は分子標的薬剤によってずいぶん選択肢ができ、また生命予後も改善してきています。分子標的薬剤のおかげで個人個人の体質・遺伝子に合わせて、ピンポイントにがん細胞を攻撃できるようになったためです。

※ちなみに新しい領域を切り開いた「ハーセプチン」「テセントリク」は共に、ロシュ(中外製薬)の製品となります。この様に抗がん剤系の分子標的薬の、パイオニア的な存在なんです。

分子標的薬剤に強い会社・弱い会社

これらは製薬会社の売上高ランキングとは全くの別物になります。

【分子標的薬剤に強い会社】
ロシュ(RHHBY)・中外製薬
●ブリストルマイヤーズ・スクイブ(BMY)・小野薬品
●イーライリリー(LLY)
●アムジェン(AMGN)
●ジョンソン&ジョンソン(JNJ)
●メルク(MRK)

先発の分子標的薬剤を作れる会社といえば以上です。なかでも断トツの会社はロシュ(RHHBY)です。この10年の躍進ぶりは凄く、現在も売上3~4位くらいのメガファーマです。開発力はダントツですが、研究開発費比率が他よりも低いのも特徴で、その低さは大きなプラスです。またPER
も低く、連続増配も長く、投資家として視ても素晴らしいの一言です。そんなロシュは個別株で買う事はできませんが、その実質の日本販売ブランド・中外製薬は個別で買えます。

ブリストルマイヤーズ(BMY)といえば、あのオプジーポやオレンシアが主力です。超高額医薬品で有名なオプジーポは落ち気味ですが、オレンシアは整形外科医曰く「他で効かなくてもオレンシアなら効く」事例が相当数あって、安定的と見なせます。新商品のラインナップ・開発力は凄いのですが、目下セルジーン買収の大赤字を抱えている事が不安視されます(その分現在割安ですが)。

【分子標的薬剤に乗り遅れた会社】
●アステラス製薬
●武田薬品工業
●大塚製薬
●第一三共
●ファイザー(PFE)
●テバ(TEVA)
●オルガノン製薬(OGN)
●ノバルティスファーマ(NVS)
●グラクソスミス・クライン(GSK)

ファイザー(PFE)=世界一のイメージが強いでしょうが違います。近年ほとんど新薬をだせず、自前開発の分子標的薬剤はほぼ皆無です。開発を諦めたのか「バイオシミラーのファイザー」を目指している所です。

※バイオシミラー=分子標的薬剤をはじめとするバイオ医薬品の特許切れ品。ほぼ類似した構造・全く同じ効果を持つ。

ですがバイオシミラーは利ザヤが小さくなる運命です。(根拠:特許切れなので他社も作り、値下げ合戦で利ザヤが減ってく為)

オルガノン(OGN)は6月にメルクからスピンオフしたブランドですが、自称「これからバイオ医薬品を目指す」です。いまは作るノウハウも設備も、持っていません。バイオシミラーで勝負しようにも、バイオシミラー市場は競争が激化しつつあり利ザヤが大きいとは思えません。

2000年台にファイザーと首位を争ったグラクソスミスですが、低分子に強くてもバイオ医薬品には弱い。売上も低分子の古いブランド医薬品に固執していて、じり貧です。

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